kitsuon3.jpg

吃音と生きる 3 就労を阻む高い壁 『新潮45』2015年8月号

「結局、数カ月で、辞めさせられました。うちの診療スタイルと、合わないとか、先生は小児の診療の、方が向いているから、とか言われましたが、話し方で、辞めさせられたのは、明らかでした」/時々少しだけ言葉を詰まらせながら竹内はそう言った。そして、ふとメガネを外すと目をこすった。「なんで涙が出てくるんだろう」。照れ笑いを浮かべ、一呼吸を置いてから話を続けた。/自信を失った竹内は、辞めさせられたことを親にも言えず、しばらくは医院に通っているふりをしながら、パン工場でアルバイトをした。なんておれはダメな人間なんだ。劣等感に苛まれ、自分の今後に絶望したが、ベルトコンベアの前で黙々と食材に向き合う仕事は、何も話さなくていいという一点によって彼に安らぎを与えてくれた。
pdfをダウンロード